ワイルドスピードの街中ゾンビカーの世界があと10年は来ない理由

カーアクション映画として大人気のワイルドスピード

ワイルドスピードの大ファンである私は、知名度が低かった2001年の初回作から毎回欠かさず映画館に足を運び、さらにBlu-ray、サントラCD、ミニカーなど収集してます・・・というのは置いといて。

個人的にはアクション性、ストーリー性がショボくてもスポコン車がたくさん出てくる第1作、第2作あたりが一番好きです・・・というのも置いといて。

第8作目となる、2017年公開の「ワイルドスピード アイスブレイク(Fast & Furious 8)」では、敵役の女性サイバーテロリスト、サイファーがニューヨークの街中の車をクラッキング(ハッキング)して自由自在に遠隔操作してしまう、衝撃的なシーンがあります。

ワイルドスピードアイスブレイクのゾンビカー(交差点)

アクション映画の世界と割り切ってしまえば、単なるアクション・エンターテイメントかもしれません。

しかしここ最近、アカウント乗っ取りや仮想通貨・決済システムでの不正送金等、サイバー攻撃の脅威が加速しています。

また、車業界・IT業界では自動運転技術の開発競争がとても盛んです。 実際、2019年後半から販売開始予定の

  • 日産のプロパイロット2.0(まずはスカイラインに搭載予定)
  • BMWのハンズオフ機能付き渋滞運転支援(まずは3シリーズ、8シリーズ、X5に搭載予定)

では、高速道路で時速60km以下など特定の条件を満たせば、ハンドルを持たずに手ばなし運転ができてしまうところまで来ています。

ワイルドスピードの街中ゾンビカーの世界イメージ

このように昨今の、

  • サイバー攻撃の高度化・脅威拡大
  • 自動運転技術の急速な進化

という状況を考えると、「いつかはこんなゾンビカーの世界がホントに来るかもしれない」と、少し心配になる人もいるのではないでしょうか?

実は心配性な性格の私は、映画を見た後、冷静に考えてみると少し怖くなってきました。

そこでここでは、車業界で15年以上働いてきた私なりの知識をフル活用し、街中の車がハッキング(クラッキング)されて遠隔操作で走り回るようなゾンビカー現象が本当に起こりえるのかについて、超真面目かつ分かりやすく分析してみたいと思います。

 

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ワイルドスピードの街中ゾンビカー(ハッキング車)の世界は起こりえるのか?

サイバーテロリストサイファー

実は、高度なサイバーテロで車を乗っ取り、自由に操ることは技術的に可能です。

しかし結論から言うと、ここ10年程度では、街中の車全てが遠隔操作でゾンビカーになることは100%ありえません。 しばらくは平和な世界が続くので安心して下さい。

 

車を遠隔操作で動かすために必要な2つの装備

車を遠隔操作で動かすために必要な装備として、

  • 1)ドライバー操作無しでも車が動ける電子制御システム(シフトバイワイヤなど)
  • 2)車内の電子制御システムとインターネットをつなぐ無線通信モジュール

があげられます。

 

1)ドライバー操作無しでも車が動ける電子制御システム(シフトバイワイヤなど)

ワイルドスピードアイスブレイクのゾンビカー(モニター)

まず1つ目ですが、いくら高度なサイバーテロ技術で車にアクセスできようが、車側が無人状態で動ける構造になっていない限り、物理的に車を動かすことができないのです。

一番単純な例で言うと、どうがんばっても未来永劫、MT(マニュアルトランスミッション)車を遠隔操作で動かすのは不可能です。

シフトレバー操作とクラッチペダル操作は、必ずドライバーが物理的・機械的に操作を行う必要があるからです。

さらに言うと、オートマ(AT)やCVT、DSGなどDレンジを持った2ペダルシフトのシステムの車であっても、シフトチェンジがバイワイヤ式で無い場合、同様にドライバーの物理的・機械的が必要となります。

例えばレバーの絶対位置を動かしてシフトチェンジ行うタイプ(ゲート式など)の場合、Dレンジでは1速→2速→3速と自動でシフトチェンジが可能であるものの、最初のP→Dのシフトチェンジだけは必ずドライバーが物理的・機械的に操作を行う必要があるのです。

つまり、MT車が街中に残っている限り、間違いなく街中の車全てをゾンビカーにすることはできないのです。

 

2)車内の電子制御システムとインターネットをつなぐ無線通信モジュール

ワイルドスピードアイスブレイクのゾンビカー(交差点衝突)

次に2つ目ですが、極端な話、自動運転支援機能やバイワイヤシステムで自由に走行状態を電子制御できるシステムが装備されていたとしても、無線通信モジュールが装備されてオンライン状態になっていない限り、外部から物理的にワイヤレスアクセスすることはできないのです。

Wi-Fi OFF状態やLANケーブルを抜いてインターネットから物理的に隔離された状態のパソコンがウィルスに感染しないのと同じ原理です。

 

車の遠隔操作に関わる3つの先端自動車技術

ワイルドスピードアイスブレイクのゾンビカー(クラッキング表示)

車を遠隔操作するために必要な装備として、

  • 1)ドライバー操作無しでも車が動ける電子制御システム
  • 2)車内の電子制御システムとインターネットをつなぐ無線通信モジュール

があげられると書きましたが、1つ目の「ドライバー操作無しでも車が動ける電子制御システム」に関わる技術が、

  • [1] 車の「走る・曲がる・止まる」を電子的に制御する技術
  • [2] 自動運転(支援)技術

の2つです。

また、2つ目の「車内の電子制御システムとインターネットをつなぐ無線通信モジュール」に関わる技術が、

  • [3] コネクテッド技術

です。 以上3つが車の遠隔操作に関わる自動車技術です。

最近、自動車業界のトレンドとして、「CASE」と言う言葉が良く使われますが、

  • C:Connected(コネクテッド化)
  • A:Autonomous(自動運転化)
  • S:Shared & Services(カーシェアリング・サービス化)
  • E:Electric(電動化)

の中にも自動運転技術とコネクテッド技術は登場します。

 

車の電子制御技術と自動運転支援技術

プロパイロット2.0のイメージ

自動運転支援機能付でハンドル手ばなし運転ができる車であれば、ドライバーが何も操作せずに車が動くシーンがイメージできるため、無人状態で車が遠隔操作されるリスクがあると理解できると思います。

しかし、自動運転支援技術の真髄は、「単に自動で車を動かすこと」では無く、「いかに安全で事故無く車を動かすか」です。

よって、自動運転支援技術として技術開発されている内容は、「ぶつからない」・「事故を起こさない」という観点であり、例えば、ハード、ソフトとしては、

  • ハードウェア:カメラ・レーダー(ミリ波、レーザー)・ソナー等のセンサー類
  • ソフトウェア:センサー入力・学習データ等からぶつからずに車を動かすための計算

がメインです。

そして、自動運転支援システムによる「ぶつからない」・「事故を起こさない」ための計算結果が、車を動かすための各電子制御システム(エンジン制御・トランスミッション制御・ハンドル制御・ブレーキ制御)に車内の通信ネットワークを介して送信され、実際の車の動きが制御されます。

つまり、車の遠隔操作に対して肝になる技術は、自動運転支援技術ではなく電子制御技術なのです。

言い換えると、フル電子制御システムで無い車であれば、自動運転支援システムが装備されていても、遠隔動作させることはできません。

また逆に、フル電子制御システムの車であれば、自動運転支援システムが装備されていなくても、「ぶつかってもいいからとにかく遠隔動作」させることはできてしまうのです。

車を動かすための主な電子制御システムは以下の通りです。

  • エンジン制御:キャブレター式からの切替以降で電子制御化済、キャブ式はごくわずか
  • トランスミッション制御(電動車はモーター制御含む):AT/CVT/DSGの登場以降で電子制御化済、ただしMTもまだ残っている
  • シフト切替制御:高級車や電動車の一部はバイワイヤ化済、多くの車はまだ機械式
  • ハンドル制御:油圧式からモーターアシスト式パワステ化でほぼ電子制御化済
  • ブレーキ制御:フットブレーキについてはABS/VSCの登場以降で電子制御化済、パーキングブレーキについてはEPB普及途上で足踏み式や手引き式も残っている

 

車のコネクテッド技術

コネクテッドカーのイメージ

車のコネクテッド化は最近、急速に進んでいます。

もちろん、ハッキング(クラッキング)されるためにネットワーク接続するのではなく、恩恵があるからこそ接続を行います。

しかし正直、ネットワーク接続されたスマホを身につけているのに、さらに車がネットワーク接続されるメリットはユーザー側からは分かりにくいのが実情です。

全ての車ではありませんが、コネクテッドサービスの具体例としては、

  • 地図データをほぼリアルタイムにダウンロードし地図更新できる
  • 車に乗る前に予めナビの目的地設定情報を送信できる
  • スマホ経由でリモートでエンジンスタート+エアコンONにできる

また、車のメーカー側へのメリットとして、

  • 車の走行場所・スピード・台数等が分かるので、渋滞や通行可能道路等の情報サービスに活用できる
  • ユーザーの車操作履歴を車の使われ方のビッグデータとして取得できる

などがあります。

 

ワイルドスピードのゾンビカー(ハッキング車)を実現する3つの装備要件

最後に、遠隔操作でゾンビカーとなりえる3つの技術的な装備要件について具体的に書かせていただきます。

ただし、以下の電子制御システムについては、現時点でほとんどの車に普及済なので、今回は既に装備されている前提と考えました。

  • 電子始動制御:ガソリン・ディーゼル車のエンジン始動、電動車のシステム始動を電子制御
  • 電子スロットル制御(EFI):エンジンのスロットル制御を電子制御
  • 電動パワーステアリング制御(EPS):ステアリングのパワーアシストをモーターで電子制御

ゾンビカーとなりえる技術的装備要件は、以下3つです。

  • 1.ネットワーク接続されたコネクテッドカーであること
  • 2.電動パーキングブレーキシステム(EPB)が装備されていること
  • 3.電動シフトバイワイヤシステム(SBW)が装備されていること

 

1.ネットワーク接続されたコネクテッドカー

前章の「車のコネクテッド技術」について書かせていただいた通り、車がネットワーク接続されたコネクテッドカーであることが、遠隔するための最低条件となります。

具体的には、通信モジュール(DCM)と呼ばれるネットワーク接続用のコンピューターと通信用のアンテナが車に装備されており、車がインターネット接続されている物理的環境が必要となります。

例えば、トヨタのプリウスPHVは代表的なコネクテッドカーです。

遠隔操作の一例として、以下の「Pocket PHV」というアプリをスマホにインストールして初期設定を行えば、スマホアプリから遠隔操作で駐車している車のエアコンをONにすることができる「リモートエアコン」という機能を使用することができます。

車遠隔操作可能なスマホアプリ(Pocket PHV)

ネットワーク経由で遠隔操作を行うので、スマホを持っている人の位置から遠く離れた駐車場に停車している車であっても、電波が圏外で無い限り、操作が可能となります。

 

2.電動パーキングブレーキシステム(EPB)

電気式パーキングブレーキスイッチ

次に必要となるのが、パーキングブレーキを電子制御で解除できることです。

上図は自動運転支援技術プロパイロット2.0搭載の新型スカイラインの電動パーキングシステムのスイッチです。

ちなみに、自動運転支援技術プロパイロット2.0は新型スカイラインのハイブリッド車にしか装備されていませんが、プロパイロット2.0が装備されていないガソリン車にも、同じタイプの電動パーキングシステムが装備されています。

逆に下図のような手引き式のパーキングブレーキ(サイドブレーキ)の場合、どうがんばってもドライバー無の無人状態で解除することはできません。

手引き式パーキングブレーキレバー

上図のような手引き式のパーキングブレーキは、レバーを引くことでレバーに接続されたワイヤーが物理的に引っ張っられ、後輪のブレーキアクチュエーターを動作させてパーキングブレーキがかかる構造になっています。

電気信号ではなく、機械的な構造としてブレーキが作動するしくみのため、手動でレバーを下ろす以外にパーキングブレーキを解除する方法はありません。

 

3.電動シフトバイワイヤシステム(SBW)

非シフトバイワイヤのシフトレバー

その次に必要となるのが、シフトレバーをPレンジからDレンジに電子制御で遷移できることです。

上図は自動運転支援技術プロパイロット2.0搭載の新型スカイラインのシフトレバーです。

実は新型スカイラインのプロパイロット2.0は、高速道路上でシフトDレンジで走行中に、手ばなしの自動運転ができるシステムです。 Dレンジの間は、トランスミッションが速度や必要トルクに応じて例えば4速→3速→4速→5速など、自動でギヤ段の切替が行えます。

しかし、車をゼロから動かす場合、シフトPレンジからDレンジに遷移させる動作が必要となります。

実は新型スカイラインのシフトシステムは、PレンジからDレンジの遷移は手動で行うシステムなのです。 具体的にはドライバーから見て一番奥のPレンジから→Rレンジ→Nレンジ→Dレンジと順番にレバーを手前に引いて遷移させます。

このシフトシステムも先ほどの手引き式パーキングブレーキと同様に、レバーを引くことでレバーに接続されたワイヤーが物理的に引っ張っられ、トランスミッションの切替機構を動作させてシフトの切替を行う構造になっています。

これに対し、下図のプリウスのシフトレバーがシフトバイワイヤに対応したタイプとなります。 下図は2015年に発売された4代目プリウスのシフトレバーですが、実はシフトバイワイヤシステムは2003年に発売された2代目プリウスから採用され続けています。 プリウスは世界でも非常に早いタイミングでシフトバイワイヤが採用された量産車と言えます。

シフトバイワイヤのシフトレバー

特徴としては、シフトレバーをPレンジからDレンジやRレンジにシフトチェンジした後、レバーが自動的に元のポジションに戻る構造となっています。

このため、シフトレバーの位置は通常同じ位置にあり、シフトレバーの位置でシフトポジションが決定されることはありません。 電子制御でのみシフトポジションが決定することになります。

よって、遠隔操作で電子制御システムがコントロールできれば、遠隔操作でシフトチェンジすることも可能となります。

 

コネクテッド、EPB、SBWが全て装備されいる車はまだ少数

前章までで説明させていただいた、コネクテッド、電動パーキングブレーキ、電動シフトバイワイヤの3つの装備のうち、1つでも足りないと遠隔操作で車を動かすのは不可能です。

そして、これらの装備が3つとも装備されている車は、現在販売されている車の中でも意外と少ないのです。

これら3つの装備の中で特に普及が遅れているのが、電動シフトバイワイヤです。 自動車メーカーにとって、部品のコストや開発費、投資を考えた場合の費用対効果が良くないのが普及に時間がかかる要因です。

そして、現時点で販売されている車の中でも電動シフトバイワイヤが装備されている車が少ないということは、保有されている車の買い替えも含めて考えると、とても10年程度では電動シフトバイワイヤ装備車に全て置き換えるのは不可能といえます。

例えば、トヨタプリウスは、

  • 1.ネットワーク接続されたコネクテッドカー:○
  • 2.電動パーキングブレーキシステム(EPB):×
  • 3.電動シフトバイワイヤシステム(SBW):○

です。

日産新型スカイラインは、

  • 1.ネットワーク接続されたコネクテッドカー:○
  • 2.電動パーキングブレーキシステム(EPB):○
  • 3.電動シフトバイワイヤシステム(SBW):×

BMW新型3シリーズは、

  • 1.ネットワーク接続されたコネクテッドカー:○
  • 2.電動パーキングブレーキシステム(EPB):○
  • 3.電動シフトバイワイヤシステム(SBW):○

です。 他にもメルセデスベンツの新型車など、欧州の高級車ブランドでは、少しづつ3つ全て対応の車が広がり始めています。

ちなみに私の愛車であるダイハツコペンは2016年式と年式的にはそこそこ新しいのですが、

  • 1.ネットワーク接続されたコネクテッドカー:×(DCM無)
  • 2.電動パーキングブレーキシステム(EPB):×(手引き式サイドブレーキ)
  • 3.電動シフトバイワイヤシステム(SBW):×(マニュアル・トランスミッション)

と、3つとも「×」なのでどう転んでもゾンビカーにはなりえない部類の車です。

ちなみに、このコペンはまだ10年くらいは乗るつもりですし、10年後の市場にはこの部類の車はまだまだ残っていると思われます。

実は現時点で日本の自動車メーカーで、3つ全て対応の車は、レクサスの一部車種など本当に限られた車種のみです。

 

ワイルドスピードの街中ゾンビカー(ハッキング車)の世界を阻止するために

ワイルドスピードアイスブレイクのゾンビカー(クラッキングコマンドイメージ)

では、以下3つの装備が整ってしまうと、街中の車がハッキングされてゾンビカーになる世界が来てしまうのでしょうか?

  • 1.ネットワーク接続されたコネクテッドカー
  • 2.電動パーキングシステム(EPB)
  • 3.電動シフトバイワイヤシステム(SBW)

そんなことになったら大変なので、世界中のカーメーカーはセキュリティーには特に気を使って、車の開発を行っています。

またカーメーカーだけでなく、行政も車の電子制御セキュリティー強化に向けた法整備に動いています。

よって今後は、上記3つの先進的な電子システムが装備された車の普及が拡大していきますが、同時に車内の電子制御システム・通信ネットワークのセキュリティーがさらに強化されていきます。

なので、そう簡単にはゾンビカーは生まれないと考えてよいと思います。

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